物語はどこまでも!
「私が代わりになりますから、その子を目覚めさせて下さい……!」
その場しのぎの解決策でしかなかった。
二度立ち向かおうとする彼の足が止まる。ぎょっとした顔をし、今にも私を怒ろうとした口だが閉じる。
代わりに口を開けたのはウィルだった。
「愚かな英断をありがとう。何よりの弱者を救済するために、多くの強者を犠牲にするその精神を尊ぶよ。おかげで弱者(僕)は救われる側に立てるからね」
伸ばされた手は、今度こそ『おいで』の意味を乗せたものだった。
もう、言葉は出ない。
自分が最善と思ったことは、後の場面において最悪のものとなるだろう。
悪魔のシナリオ通りに物語は進むのだから。
足を進める。迷いない一歩のはずが、彼の背中に遮られた。
「あいつを消せば、少女も起きる。この物語が崩壊する前に君と少女は元の世界に戻るんだ。俺の心配も必要ない」
これが最悪を免れる最善の策。
もしもこの場に野々花がいたならば、彼女もまたこの解決策に至る。
彼とていよいよとなれば、一つの物語を消すことも出来よう。ーーでも。
「誰かが犠牲にならなければいけない物語(シナリオ)を書きたくはないです」
命(ウィル)だけでなく、心(彼)もまた、結末の代価となってはいけない。
一つの物語を終わらせた彼の悲しみを癒せるわけがない。彼は一人でこの先永遠にその罪を背負わなければならなくなる。
「あなたも、私も、もっと意地悪になれば良かったですね」
冗談めいた口調で言ったのは、彼のせいではないと言いたかったから。
その背中を横切る。止めの言葉は入ったが、鎖で繋がれたわけではないのですんなりと進められた。