物語はどこまでも!

「ーーふっ」

それを事も無げに刀で薙ぐ女傑。
一太刀入れただけで、怪物の一匹は地に伏した。

「さすがと言うべきか、やはりと言うべきか。お前の旦那の強さはなかなかであり、同時にこいつらの執念はそれ以上に強い」

「野々花……」

「見ろ。私がトドメを刺す前に、こいつらはもはや死に体だ。お前の旦那があちらで弱らせてくれたのだろうよ」

地に伏す『そそのかし』の体には野々花がつけた物以外に大きな傷があった。よく見れば、他の怪物たちにも。

血臭が広がったと思えば、このせいか。散り散りになったページの欠片より出てくる『そそのかし』は、今にも消え入りそうだった。


「の、ノノカ!それならば、ノノカが手を下す必要もありますまい!に、にげーーあ、いや、共に参りましょう!」

「言葉を選ぶ必要などないぞ、マサムネ。ああ、何にせよ、私はここから動くつもりなどないのだから」

二本目の刀を抜刀する彼女の視線は死に絶える『そそのかし』たちではなく、もっと先のーー

「あの男に逃げろと言わせるほどの相手が、これから来るのだからな!」

“刺激”を求める眼差しが捉えたのは、怪物たちを踏みつける怪獣に他ならなかった。

地面に窪みをつけるほどの巨体の咆哮で、リーディングルーム内を象るガラスが割れた。

耳を塞いでも脳髄を震わす音は声とは言い難い。鯨めいた鳴き声でありながら、それはどこかーー

「ーーーー!」

何かを求めて泣き続ける赤ん坊のような。

えも言われない感情が巡る中、スタッフたちの悲鳴を聞いた。割れた窓ガラスが落ちてきたのだ。もとは強化ガラス。頭に当たれば切り傷どころではない。

まだ逃げ切れていないスタッフたちと、そうして。

「ゲノゲさん!」

居合わせてしまった聖霊たち。近場にいたゲノゲさんを二匹を掴み、抱きしめるも、ガラスの欠片は落ちてこなかった。

上を見れば、木々の太い幹がまだ落ちていないガラスを押さえ、そうして、風の聖霊たちが割れた破片を人のいない場所へ落としていく。

その間に残った物たちは居合わせた聖霊を連れ、外へ逃げていった。

残ったのは、私とマサムネーーそうして。


「ノノカ!」

『そそのかし』に立ち向かっていく野々花。
マサムネの制止を振り払い、猛々しく相手を斬りつけていくも、その体は頑強なのか刀が折れた。

絶望的な相性の悪さ。刃が通らない相手。そも、倒せるかも分からない相手であり。

「いいぞ!」

最高の相手。そう物語るのは、彼女の口元。


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