物語はどこまでも!

地団駄を踏むように暴れる尾先を見越してか、野々花は私とマサムネを担ぎ、出口付近まで撤退する。

遠目からだからこそ、あの『そそのかし』の強大さが良く分かる。数の暴力ならぬ、大きさの暴力だ。一度でもあの尾先の下敷きになれば、言うまでもなく。

「ノノカ、っーーノノカ!ノノカぁ!やめ、やめて、し、しんじゃうよ!ノノカぁ!」

野々花の腕を掴み止めようとするマサムネがここまで必死なのも、彼が一番野々花のことを分かっているからだろう。

私とて分かっていた。

「やめて下さい、野々花!あの時の言葉を忘れましたか!」

「なに、私とてそこまで無謀なわけではない。勝てる見込みがあるからこそ、立ち向かうのだ」

見ろ、と新たに抜刀した刀の切っ先は『そそのかし』の目へーー六つある赤い複眼へと向けられた。

「お前の旦那は良いヒントを残してくれたものだ。どの生物も目玉は切れる。それはあれとて例外なし。三つも潰してくれたんだ、後は造作もない」

確かに六つの内の三つは切られて潰れているが、それがどうしてあれを止められる自信に繋がるというのか。

あの巨体を這い上がるすべすらもないはずなのに、どうして彼女は。

「先ほどな、私は一つ嘘をついた」

「え……」

こちらを見ずに野々花は言う。

「私が緊急事態の宣言をすれば外から援軍ーー救護隊が来るはずなのだが、その合図が鳴らないのだよ」

彼女がその場しのぎの嘘を言うはずがない、ならばそれは。

「紙面上の言葉であれば、緊急事態発生の場において最も位の高い者には場を指揮する権限が与えられ、スタッフ及び聖霊たちはこれに対して迅速に従わなければならない。それと同時に緊急時警報が鳴り、外より救護隊が到着するわけなんだがーー図書館設立より一度も使われないものだから、カビでも生えてしまったのか」

決して笑い事ではないことでも、彼女は苦笑する。

「いつ救護隊が来るかは分からない。敷地外まで逃げた精鋭たちの騒ぎを聞きつければさすがに動くだろうが、何せ、この図書館は広いからな最低十分以上は助けが来ない。あいつは数分もかからない内に敷地の外へ出られるというのに」

だからだよ、と彼女は続ける。

「“誰か”がやらなければならないのさ」

それが自分だった。という彼女を行かせられるわけがなかった。

「雪木、お前とて、やらなければならないことがあるだろう。“止められない奴はもう一人いたのだから”」

「ーー」

セーレさんの姿がよぎった。
三つ目を潰した彼がその後どうなったのか。あんなものに立ち向かってしまった彼が無傷なわけないだろう。

「それぞれ、やらなければならないことがあるんだ。お前の場合は、“誰か”ではなくお前しか出来ないことだがな」

「でも、もう!彼に会うための本が……!」


ページ破片すらもあの巨体に潰されてしまい見る影もない。他の物語からでは、彼のいる世界には飛べない。もとの場所へ戻るにはあの本しかーー

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