君と、ゆびきり
「ち……さと……」


風の小さな声が聞こえて来て、あたしの心を鷲掴みにする。


「おめでとう」


力を振り絞ってそう言う風に、涙が込み上げて来る。


けれど、風の前で泣いたりなんてできなくて、あたしは空を見た。


今日は良く晴れていて、涙なんて似合わない日だ。


「明日は卒業式なんだよ、風」


あたしは話題を変えて風にそう言った。


今でもお互いの小指に光っているビーズの指輪。


すべてはここから始まったんだ。


「卒業式……しよう」


「え?」


「俺たちだけの……卒業式」


風がそう言い、微かにほほ笑んだ。


弱弱しいほほ笑みだったけれど、それは確かにいつもの風の笑顔だった。


「そうだね。しよう。2人きりの学校。2人きりの卒業式を」


あたしはそう言い、風の手を強く握りしめたのだった。
< 210 / 226 >

この作品をシェア

pagetop