イジワル社長は溺愛旦那様!?
もう一方の目からこぼれる涙を、湊は身をかがめて、唇でぬぐい、そして優しく微笑んだ。
「これ以上はしない。夕妃の治療が先決だからね」
(湊さん……)
それは要するに、この先まで進むのは――自分の声が普通に出るようになってから、ということなのだろうか。
確かに、自分の声で意思表示ができない今の夕妃を抱くことはできないと湊は言っていたが、本当に声が出るようになるまで待ってくれる、ということなのだろうか。
薬は言われたように毎日飲んでいるが、いまいち効いているのかよくわからない。
スマホで失声症について調べても、一週間で声が出るようになったという人もいるし、一年半かかったという人もいて、千差万別だ。
(それまでずっと待ってくれるの……? なんの保証もないのに?)
夕妃は目の端に残る涙を指先で拭いながら、湊を見上げる。
「待つよ」
まるで心を読んだかのように、湊が囁く。
「お預けしてるこの状況も楽しいし」
(――楽しい? いやちょっと待って、お預けしてる……?)
「俺に毎晩キスされて、可愛いと囁かれて、身もだえして涙ぐむ夕妃を見るのは楽しいだろう」