イジワル社長は溺愛旦那様!?

目を閉じれば、十四歳のときの、初めて会ったときの朝陽の顔を思い出し、一緒に暮らした四年間の、悲喜こもごもが思い出されて、胸がいっぱいになったのだ。


(悲しいわけじゃない、朝陽くんが自分の意志で決めたことなんだから、それはすばらしいことなんだから……立派なことなんだから)


そうわかっていても、涙が止まらず、まるでこれでは娘を嫁にやる父親のようだと、自分を叱咤激励したばかりだ。

こっそり泣いていたはずなのに、まさか気づかれていたとは思わなかった。

湊の指摘に夕妃の顔が真っ赤になる。


「悲しい、わけじゃないけど、ちょっと……その……」
「ああ、わかるよ」


湊はうなずいて、うつむく夕妃のあごさきを持ち上げる。


「夕妃はこの四年間、母親で父親だったんだからね」


そして指で、すりすりと目の端をなぞる。


「頑張ったね」


そして夕妃の体をしっかりと両腕で抱きしめる。
その優しいいたわりに、じーんと夕妃の胸は熱くなった。


「ありがとう……」


それから湊の出勤を見送る。

湊も今日の夜のために、早めに帰ってきてくれる。


< 258 / 361 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop