イジワル社長は溺愛旦那様!?
職場からタクシーで三十分ほどの距離にある高層マンションの最上階が、夕妃の帰る場所だ。
「ただいまかえりましたー!」
マンションのカギを開けてドアノブをひくと同時に、黒い影がサッと動いた。
「わあっ……」
飛びつかれて体がふらついたが、大きな手のひらが夕妃の背中にまわり、背中を支える。
転倒せずに済んだことにホッとしつつ、夕妃はひんやりとした黒いセーターの腰に手を回した。
すると今度はしっかりと、夕妃の体が抱きしめられる。
これが夕妃の帰りを今か今かと待っていた“猫”の正体だ。
「遅い」
本当に待ちくたびれていたのだろう。
頭上から少し不機嫌そうな声が響いて、夕妃は眉の八の字にしながら顔を上げた。