チューリップ

「すみません…そういう事情は人事と思えなくて…。

私も小学生の頃、両親を亡くしてるんです。」


涙を岩城先生に差し出されたハンカチで拭いながらそう言うと、先生は小さな声でそうですか…とつぶやいた。



「ある日、隆太とそれからを話すために仕事を切り上げて帰ったとき、初めて隆太が由香里は自殺したんだと思っていることを知りました。



『母さんが…自殺するなんておかしいだろ?あんたのせいなんじゃないのか?



母さんが惨い最期を迎えるはめになったのは、あんたのせいだろ!?』




目を尖らせてそう言われたとき…


私はあの子に向かって
包丁を投げたんです。




正直、そのときの感情はよく覚えていません。


多分、由香里の死を惨いと言われたことに対する怒りと、あの子の誤解へのショックだったんだと思います。




私は取り返しのないことをしてしまったと思いました。



でも…







それでいいんじゃないかとも思ったんです。」
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