溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~

 初めて会ったこの人は、やっぱりフラッグ出版の取締役社長だった。聞き覚えのある名前だったから、予め調べておいてよかったと、名刺にある肩書をもう1度見直す。


「今日、取材させていただいた際のボイスレコーダーを聞いたんです。ちょうど編集に顔を出すつもりでおりましたし、葛城社長に取材をすると知っていたので、今回の進捗を横野に聞こうと思いましてね……。本当に、失礼をいたしました。本来でしたら横野も同席するべきなのですが、別件の取材が入っておりましたので、私がお時間を頂戴した次第です」

「ご丁寧にありがとうございます。しかし、お世話になったのはこちらですので」

 私も頭を下げるも、桃園社長はなかなか戻らない。



「横野が他の案件を蹴ってでも、葛城社長にお話を伺いたいと熱心に希望していたそうで……まさか意味の違う熱心さだったとは知らずにおりました。予定にない内容は控えるようにと社内でも話を通していたつもりなのですが……言い訳ばかり並べてしまい、謝罪になっていないことは承知です。葛城社長もご気分を害されたのではないかと」

「大丈夫です。葛城は、大して気に留めていないと思います。弊社の広告塔でもある葛城をクローズアップしてくださる機会をたくさんいただけていますから、御社には感謝してもしきれません」


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