溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~
「白埜さん、ここに来たことはある?」
「1度だけあります。大学の頃、飲んだ帰りにみんなで酔い覚ましに」
「ジンクス、知ってる?」
知らないと首を振ると、彼は長くて形のいい指を、夜景に移り変わっていく高層ビル群に向けた。
「コスモクロックに灯りが点いた瞬間、願い事をすると叶うんだって」
「へぇ……」
綺麗にライトアップされる観覧車に興味がないわけではないけど、強烈に驚くようなことでもなく、あっさりとした反応をする。
だけど、葛城社長は正面に向き直って、その時を今か今かと待つ横顔を見せた。私がこういう返事をすると、きっと知っていたんじゃないかと思えるほど、ごく自然に。
「あ、点いた!」
彼は風音に耳を澄ますように、穏やかに目を閉じている。
願い事……あったかな。
結婚願望もそれほどないし、仕事がうまくいくようにとか、そういう類の願い事でもしようか。