溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~
19時前。店が本格的に混み始めた頃、逆行するように店を出た。
少し歩いて、夕焼けが夜に染まってきたみなとみらいの景色を大さん橋から眺める。湿り気のある風が度々髪を救うのが煩わしくて耳にかけると、社長が私を見つめていることに気づいた。
「今日は、つき合ってくれてありがとう」
「こちらこそありがとうございました。ご飯も美味しかったし、それに」
あぁ、まただ。話していると、言うつもりのないことが流れ出てきそうになる。
桃園さんと食事をするよりも、ずっと楽しかった気がする……なんて、言うべきではない。雨賀碧とつき合っていないと言うけれど、キスをしていたのは事実なのだから。
「それに、何?」
「何を言うか、忘れました」
ごまかしついでに笑みを浮かべると、社長は鼓動を鳴らしたような驚きを見せた。
「本当に、美味しかったです。社長が来ないと後悔するって仰っていたのは、こういう意味だったんですね」
友達とでもいいから、また行きたいと思う。
きっと桃園さんは行きたがらないだろう。彼が好むのは、あんなふうに爽やかな陽光が似合う店ではなくて、ムーディーで夜に正体を現すような店ばかりだから。