溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~
「本日は、うちの記者が大変失礼を」
「謝っていただくことなんて1つもなかったですよ。終始、私の話をよく聞いてくださって、記事になるのが楽しみになるインタビューでした」
「そう言っていただけてホッとしました。葛城社長がお出になった時の部数は、最低でも通常の倍を数えますから、弊社としては今後とも是非出ていただきたいんです」
「もちろんですよ。新しい商品の宣伝もさせていただけるんですから、こちらとしてもありがたいお話です」
2社のトップがにこやかに話しているその隣で、私は口角を上げて冷静に聞き入る。
メモを取ることはなくとも、頭の中にどんな会話がなされたか覚えておく必要があるからだ。
「それでは、また機会がありましたらお食事でも」
「ありがとうございます」
桃園社長が乗ってきた黒塗りのセダンは、運転手つきの社用車だ。
「THE・社長を地で行くタイプですね、桃園社長は」
「そうだね。いい人でしょう?」
「でも、社長は苦手ですよね?」
「さすが千夏ちゃん、よく分かってるね」
車が見えなくなるまで、あえて見送る社屋前の車寄せ。
葛城社長と並んで交わしている会話は、誰にも知られてはいけない。