溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~
食事を頼もうとする彼を残して、先に店を出た。
腹立たしい言葉と態度、今日までの楽しかった時間。合わさることのないそれらが感情を何度も刺してくる。
それなのに、素直に泣けないのは……失恋の準備をしていたからだろうか。
想像以上に桃園さんの心は黒かったけれど、なんだか他人事のように感じてしまうほど、未だ実感がない。
桃園さんは何がしたかったのだろう。ただ私を都合よくするなら、こんなに酷く言われる必要はあったの?
飽きたにしても、本気ではないにしても、それこそ雨賀碧との婚約を認めてくれるだけで、私は十分身を引けるのに。
あまり歩いたことのない街並みは、どこに何があるのか分からない。今夜みたいな日は家に帰りたくもないけれど。
見上げれば、綺麗な満月がある。都心の夜空って、こんなにも星が見えないものだったかと、久しぶりに仰いだ四角い空にため息を忍ばせた。