溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~


「この匂いって、柔軟剤ですか?」

「香水だよ」

「清潔感があっていいなって時々思っていたので……香水だったんですね」

「結構定番のやつなんだけど、なんて名前だったかな……ユニセックスで、使いやすいから、ずっとこればっかりになっちゃってて」


 私が緊張してるなんて気づく様子もなく、まるで友達と話してるみたいにするんだなぁ。
 ハンドルを切ったり、頬杖を突いたり、ふとした動きに合わせて香るたびに、彼が染み込んできてたまらない。



「そんなことに興味を持ってくれていたとは、意外」

 真っ直ぐ前を見ていた彼が、一瞬だけ不意に視線を合わせてきて、私はウィンドウの外に意識を逃す。


 別に深い意味はないと、可愛げのないごまかしを言えないまま心で呟き、今日1日やっていけるのかと自分の鼓動の速さに不安を覚えた。

 いつの間にか指輪の跡が消えて、それに比例するように思いは募る。
 未だ、彼の気持ちはわからないままだ。

 色々を思い出せば期待できるって思うのに、ちょっとしたこと簡単にしぼむ。だけど、やっぱり同じ気持ちでいてくれてるような気にさせられて……。

 失うくらいなら諦めるも進むもしないで、漂う片想いの曖昧に頭の先まで浸かっていたくなる。


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