溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~

「今、少しだけ外せるかな?」

「はい。数分でしたら」


 葛城社長に打ち合わせと告げて、社長室を後にした。



 そのまま階下へエレベーターへ向かい、桃園社長の後についていく。

 大きくて頼りがいのありそうな背中。美しい濃紺のブレザーが良く似合っていて、引き締まった顔立ちをより際立たせている。



 車寄せに停められていた黒塗りのセダンから、彼は小さな袋を持ち出した。



「こんなタイミングで渡すものじゃないかもしれないけど、連休の間もその前もしばらく会えてなかったから……もし、少しでも寂しいと思ってくれていたなら、受け取ってほしいんだ」


 袋の中からは、肌馴染みのいい革張りの箱。
 手のひらより少しだけ大きい四角に、期待してしまうのは女の性(さが)かもしれない。



「重たい理由をつけるには、まだお互いを知らなすぎるけど、ちゃんとそういう関係になれたらいいと……千夏さんとなら、そういう未来の時間を共に過ごせると思っています」


 ダイヤモンドが5月の陽光をめいっぱい取り込んで、祝福の輝きを散らした。


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