溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~



 18時を過ぎた頃、デスクを離れて社屋を出た。

 最寄駅までの間、周りを確認してからバッグの底のほうから取り出した箱を開け、夜空とネオンに引けを取らない輝きの石を、右の薬指に着けてみた。


 芸能人が会見でするような形に指を揃え、真上から見下ろしたり横から見てみたり……。




「とても綺麗ですね。桃園社長にいただいたんですか?」

 背後から掛けられた声に振り返れば、時間を問わずポーカーフェイスの葛城社長がいた。


「お疲れさまです。外出されていたんですか?」

「コンビニのパンが無性に食べたくなったので。それで、その指輪は桃園社長からですか?」


 上手く交わしたつもりが、社長は食い下がる。反応が好ましくなさそうだから、言いよどんでしまう。


「えぇ、今日いただいたんです。海外に行かれていたそうなので」

「お土産にしては、随分と高価ですね。私は何とも思いませんし、他言無用と解っています。何はともあれ、今日は取材が無事終わってよかったです。また機会があればお願いしますので、最愛の桃園社長にもよろしくお伝えください」


 革靴の踵を鳴らしながら社屋ビルに入っていく葛城社長の言葉には、時々棘がある。

 桃園社長のことになると、特に。


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