王子、月が綺麗ですね
「こんな悲惨な状況で、それでも此処で歯を食いしばり民が苦しみに耐えて暮らしていることも知らずに……我が国には龍神の加護があるから安泰だと思い込んでいた」

淡々と話す王子の様子が悲しみの深さを物語っていた。

「両陛下が各地を視察せよと命じられた意図、男子皇族はお飾りであってはならぬのだ──その意味が解った気がする」

「お飾りであってはならぬ、深いお言葉です」

「観て回らねば解らぬことがあるのだな。与えられる情報だけでは解らぬ……」

視察に出たばかりの頃とは、王子の顔つきが変わったと思った。

視察に出た日からずっと、毎日が緊張と緊迫感の連続だった。

各地の役所や施設を訪れ、案内や説明を受けるたび、王子は役人に質問を投げかけた。

王子は王位継承権がないために、役人たちから上辺だけの説明しかされないことに、何度も歯痒い思いをされていた。
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