王子、月が綺麗ですね
小さく呪を唱え、再度ゆっくりと印を結んだ王子はフッとため息をついた。

「其方は我らを南の都、港からずっと着けて来ておるな。休処へは騒ぎに乗じ先回りしたのであろう?」

「──はい」

男性は虚ろな目で王子の問いに答えた。

「誰の命で我らを着けておる?」

「───」

男性は一旦、何か言おうと口を開けていたけれど直ぐに、口を閉じた。

「言わずとも──知れておるな」

王子は静かに言うと、再び男性の額辺りで呪を唱え、五芒星の印を結んだ。

男性は何事もなかったように、我に返ったかに見えた。

「それで?」

王子がさも平然と話しかける。

「何処まで話しましたかな……」

「紫貝で染めた絹糸を買い付けに行かれて、モノは手に入りましたか。百年、途絶えていた糸が」

「───ええ、なんとか」
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