王子、月が綺麗ですね
王子は召喚した式神の額の前で印を結び「1体では心許ないな」と呟き再度、人型を取り出し呪文を唱えた。

新たに現れたのは紅蓮殿そっくりの式神だった。

「頼んだぞ」

2体の式神を前に大きく手を動かし、先ほどとは違う印を結び、式神を送り出した。

「見事なもんだね。さすが姉上のお墨付きだよ」

瑞樹さまは嬉しそうに賛嘆なさったけれど、王子は「出来てあたりまえなのです」と、キッパリ言い放った。

王子のお側につき1時間ほど歩く間、王子は時々立ち止まり、松葉杖を握り直した。

「おみ足が痛みますか?」

「少しな。出しなにしっかりテーピングしておる。今暫くは歩ける」

「でも……」

「荷物も持ってもらっておるのだ」

王子は小声で「黙っていろ」と付け加えた。

お昼近く、田園畑を抜け、小さな市場に着いた。
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