王子、月が綺麗ですね
「それは重々承知しておる。承知した上で、どうにかならぬのかと訊ねておるのだ。痙攣、痺れ、脱力感を少しでも緩和できぬのか」

「薬で一時的には効き目もございましょうが、気休め程度にございましょう」

「キツい言いようだな」

「朔が明けるまで大人しくしておられるべきです。湯治行脚、先を急ぐ必要もありますまい」

俺がハーン殿の診察を受けていると、祥と紅蓮が温泉に浸かり戻ってきた。

「ハーン殿。其方は暢気でよいな。龍神の加護が穢れで弱っておるかもしれぬのに。急がねば王国全土に広がるやも……」

ハーン殿は俺の危惧など知ったことかと顔をしかめて、俺の足を揉みほぐした。

「あんたは余計なことを考えずに療養に専念してりゃいいのに」

祥が俺を見下ろし、ポツリと言う。

「祥、湯治行脚と言えども視察を兼ねている。王族ともなれば、療養だけと云うわけにはいかぬ」
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