王子、月が綺麗ですね
「五分五分でしたね」

「奉納試合、勝たねばならなかった。出ぬわけにはいかなかった」

王子は淡々と抑揚なく言われたけれど、王子が感情を押し殺しているのがわかった。

「勝って当然だ。俺が王子の剣術指南をしているんだから」

紅蓮殿が胸を張り、毅然として言い放たれた。

南の都へ向かうため、王家専用港から船に乗った。

岸壁を離れ出発した船の甲板から、王都を眺めた。

瀬戸内の凪いだ波を走る船は、揺れも静かで青く澄み渡るようにきれいだった。

「凛音」

松葉杖をついた王子には僅かな揺れでもバランスを取るのが難しそうで、わたしは王子の体をしっかり支えた。

王都が小さくなり見えなくるまで甲板にいた。

王子を船室までお連れしようとしていると、紅蓮殿が王子に手を貸し、祥が荷物を持ってくれた。
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