今夜、きみを迎えに行く。




「台所の掃除をしてたらね、お母さんの日記を見つけたの。お母さん、わたしのことばかり書いてた。毎日ほとんど、わたしの名前が書いてあるの。葵、葵、葵って。わたし、お母さんにあんなに思われているなんて知らなかった。あんなに思ってくれてるのに、なんで気付かなかったんだろうって思った」



お母さんの話をすると、知らないうちに目に涙が溜まってくるのがわかった。なんでだろう。わからないけれど、それが恥ずかしくてシュウから少し目をそらす。



「お風呂の掃除をしたら、お父さんがすごく喜んでくれた。わたしの洗ったお風呂に入ると、疲れが取れたって。お父さんにありがとうって言われたのなんて、何年ぶりかわからないよ」



シュウは、わたしが目をそらしたことに気付いていると思う。だけど、シュウは何も言わなかった。
ちゃかしたり、からかったり慰めたりもしなかった。
ただそこにいて、わたしの話を聞いていた。



「誰かにありがとうって言うとね、わたしの心が幸せでいっぱいになるの。その人が、わたしのことを思ってくれているんだってわかるから」



シュウは優しい顔で頷いた。わたしの頬はあたたかく少し湿っている。たぶん堪えていたやつが流れたんだと思う。



「シュウ、ありがとう」



そこまで言い終わると、シュウは立ち上がって手を伸ばす。わたしの髪をふわふわと撫でるシュウ。

湿った頬が、シュウの指先でそっと拭われた。



< 105 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop