今夜、きみを迎えに行く。
見たことのない景色だった。
並木道から少し外れただけなのに、そこはもうまるで違う町のようだった。
ずらりと並んでいるどの家も、ずっと昔からそこにあるような古くて大きな建物ばかり。柿の木や山茶花、大きな松の木、桜の木、樹齢百年は軽く越えていそうな立派な樹木の枝先が、古い家々の庭から塀の外側にまではみ出している。
わたしの両親のようにこの町に新たに越してきた人たちが建てたものとはまったく造りの違う、小さな勝手口のある家や、大きな蔵のある家ばかり。家というより、お屋敷、といったほうがしっくりくる。小さな勝手口からは、着物に割烹着を着た昔のお母さんが出てきそうな、そんな感じ。
古い日本映画のセットみたいな通りの先に、今度は先ほどまでとは正反対の雰囲気の、小さな家を見つけた。
正反対とはいっても、建物自体が古いのは、さっきまでと同じ。
違うのは、その家の雰囲気そのものだ。
そういえば、少し前に、こんな雰囲気をした建物を見たことがある。
中学校の修学旅行で立ち寄った異人館。なんとかの館、とかなんとか邸、とか、そんな名前の古い家。
なんとか邸とか、なんとかの館のように大きくはないけれど、建物の雰囲気そのものはすごく似ている。
屋根のあたりには蔦が絡まっていて、中から魔女でも出てきそうな木の扉。
よく見ると、白い壁に木製のプレートがかけられている。そして木製の小さなプレートの横、剥がれかけたボロボロの紙に、手書きの文字。
「…喫茶店…?…アルバイト募集…」
思わず自転車から降りて、店の前で立ち止まる。
どこからか、ひゅう、と爽やかな風が吹いた。