今夜、きみを迎えに行く。
2*coffee




店の目の前に、自転車をとめる。



その小さな家には窓がついているけれど、蔦が絡まっているのと完全に透明な硝子ではないせいで、中の様子はわからなかった。
人が中にいるのかいないのか、木製のプレートには一応、オープンと筆記体で書かれているけれど、ほんとうに営業しているのかわからない、そんな感じ。



丸みを帯びた屋根のてっぺんには鶏みたいなものがついていて、小さな家自体がなにかのオブジェか記念品みたい。

その場所だけが、セピア色に染まって見える。



入ってみようか。と思った。



普段のわたしならそんな勇気はないだろうし、知らない場所に立ち入るなんてそんな冒険はしないと思う。



だけど、今日のわたしはなんとなく、いつものわたしとは違う気がした。



家にも、学校にも、興味のあるものなんてどこにもなくて、やりたいことも欲しいものもわからない。

なりたい職業や行きたい大学もわからない。

自分がなんのために存在しているのかわからないわたしが、自分の興味を抑えられない、そんな気持ちになるなんて。



小さく深呼吸をして、ドアの目の前に立ち、くすんだ金色のドアノブに手を掛けた。



かちゃり、と心地よい音がして、頭の上で天使の笑い声みたいな金属音が鳴っていた。







< 13 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop