今夜、きみを迎えに行く。
海も山も川もある、緑豊かで、生活に不便なほど田舎でもなく、狭苦しい都会でもない。
子育てにはぴったりの環境。と、この土地に惚れ込んだ両親が、父の両親と共にこの町に住み始めたとき、わたしは母のお腹の中で、外の世界に出るのを今か今かと待ちかねていた。
待望の第一子。
不妊治療の末にようやく授かった我が子に、両親はこれでもかと愛情を注いだ、らしい。
小さな頃からピアノにお習字、英語に体操と、休む暇もないほどたくさんの習い事に通い、子育てには最高の環境で、教養のある両親に最高の教育を与えられ、手をかけられて育った一人娘。それがわたしだ。
豊かな土地に、これでもかと植え付けられたたくさんの種。けれどそれらは、見事にひとつも芽を出すことはなかった。