今夜、きみを迎えに行く。
「そろそろ帰るね。今日はとても楽しかった」
シュウがポケットから取り出した懐中時計をみて言った。長いチェーンがついていて、鈍い金色をした、いかにも古いその時計は、シュウにとてもよく似合っていた。
だけど少し変な感じ。携帯電話でも腕時計でもなく、懐中時計だなんて。
やっぱりシュウは変な人だ。
「また、話をしに来てもいい?」
「じゃあ、今度は店長のいるときに来てください。すごく美味しいコーヒーが飲めるから」
わたしが言うと、シュウは笑った。
「ココアでいいよ」
「うちは、コーヒーが売りだから」
「ココアでいいって言ってるのに。アオイは頑固だな」
シュウはそう言ったけど、わたしはシュウにトミーさんのコーヒーを飲んで欲しかった。それに、シュウと二人きりで話をするのはやっぱりなんだか恥ずかしい。
シュウは話をするときに、すごく相手のことを見詰める癖があるからだ。
「アオイと話ができてよかった。じゃあまた」
「ありがとうございました」
小さく手を振って店を出ていくシュウ。
シュウがいなくなった店はしんと静まりかえって、わたしがマグカップを洗うカチャカチャという音と小さな音量のピアノの音色だけが響いた。
シュウと一緒に飲んだココアのカップを磨きながら、わたしはとても幸せな気持ちになっていた。