今夜、きみを迎えに行く。
4*pound cake
次の日の朝、わたしはいつもより三十分もはやく起きて、制服に着替えた。
リビングに用意された朝食を、黙って食べる。
「今朝はずいぶん早いのね」
母親が、不思議そうにたずねてくる。
「うん、まぁ、ちょっと」
茜のことを迎えに行く、とは言い出せなくて、うやむやにしたまま黙々と食べ、いそいで立ち上がる。
「ごちそうさま」
「気をつけて行くのよ」
抑揚のない、母親の声を背中で聞いていた。どうせわたしの事なんて、心配していないくせに。
「いってきます」
玄関を、ひとりで出る。
茜の家は細い道を挟んですぐ隣。路地と庭の芝生をまたいで茜の家の前に立つ。
茜の自転車はまだそこにある。中に茜がいるはずだ。
十年以上も毎日、一緒に登校していても、こうして茜の家に迎えに来たことはない。
まったくもっておかしなことだけれど、わたしはかなり緊張していた。
勇気を出して、茜の家の玄関のチャイムを押そうとした、そのときだった。
「……もう……いい加減にしてっ!」
茜の家の玄関のドアのむこう側から、叫び声にも近い怒鳴り声が聞こえて来た。
この声は、茜のお母さん…?
「……黙れ!お前らの為に俺がどれだけ……早く……早く出て行け!!」
低く大きな怒鳴り声。これは、茜の、お父さん……?
わたしはチャイムを押そうとした手を思わず引っ込めた。
その瞬間、玄関のドアが勢いよく開いて、中から制服姿の茜が飛び出して来た。