今夜、きみを迎えに行く。
「今日もうちで朝ごはん食べるの?」
当たり前のように上がり込んでくる茜にわたしはいった。毎日ふたり一緒に通学するのは日課だけれど、迎えに来るのには早すぎる時間だ。
「うん。今日うち、朝ごはんパンの日だから」
爽やかな笑顔で茜がいった。
「葵んちはいつも和食でしょ?朝はお米のほうがいいんだよね、わたし。パンだと体力もたないんだもん」
「ふうん」とわたしは答える。
茜と並んでリビングに入ると、いつもの朝ごはんが準備されていた。
お味噌汁と炊きたてのご飯、目玉焼きとベーコンと、鮭、それにサラダ。サラダの野菜は近所で家庭菜園をしている人からもらったやつ。
それが、きっちり一人分多くテーブルに並んでいる。
「お母さん、なんで茜が食べに来るってわかったの」
キッチンに立つ母にわたしがたずねると、満面の笑みで母は答える。
「だって、今日は水曜日だもの」
「さすがおばさん」
と茜が笑う。
「うちが水曜日パンの日だって、覚えてくれてるんだ。おばさん、ありがと」
「どういたしまして」
答える母はやっぱり満面の笑みだ。
わたしには、めったに見せてくれたことのない笑顔。
茜と並んで席に着きながら、ふと思う。
茜が、この家に産まれて来れば良かったのに。
そうだったなら、さぞかし両親は幸せだったことだろう。