今夜、きみを迎えに行く。
父親のために、湯船に新しいお湯をはる。
まだ濡れていた髪をドライヤーで乾かしてから、祖母の部屋をたずねた。
「おばあちゃん」
とくに、用事があった訳じゃない。ただ、お風呂でおばあちゃんとの思い出を、思い出しただけ。
祖母の部屋の戸を開けると、祖母はベッドから窓の外を眺めていた。今夜はよく晴れた星空で、それがよく見えるようになのか窓のカーテンは大きく開け放たれている。
「おばあちゃん」
もう一度、声をかける。ゆっくりとこちらを向いた祖母は、入れ歯を入れていないからか随分しわくちゃの顔をしていた。
「葵だよ、おばあちゃん」
もう、祖母はわたしのことが解らない。
もう、「おかえりあおちゃん」と言ってはくれない。
今日の祖母は、わたしを誰だと思っているのだろう。
「おばあちゃん、昔、よく一緒にお風呂、入ったよね」
祖母の顔の近くに寄って、小声で話し掛けてみる。
目は開いているけれど、反応はない。
わたしは構わずに話し続ける。
「わたしがおばあちゃんの背中洗ったりしたの、覚えてる?お母さんと入りたいなんて、わがまま言ってごめんね」
わたしは、祖母にたくさんのワガママを言ったと思う。
親が家にいない寂しさを、祖母にぶつけていたのだと思う。
「おばあちゃんのおっぱいがしわしわで嫌だなんて、言ってごめんね」
祖母はわかっているのかいないのか、小さく頷いた。
わたしのことが、解らないから言えるごめんねを、これからはたくさん言っておこうと思った。