今夜、きみを迎えに行く。
学校へ向かって、川沿いの道を自転車で走る。
両親が惚れ込んだ土地だけあって、四季折々に姿を変える川沿いの並木道はいつも無駄に美しく、空気はいつも息苦しいほど澄んでいる。
こんなに美しい町で育ったのに、なんでわたしの心はこんなにも濁っているんだろう。
後ろから、「あーおーいー!葵ってば!」と叫ぶ声が聞こえて来る。
あっという間に茜の自転車に追い付かれ、並んで自転車をこいでいく。
茜のセーラー服姿は、この町の景色がよく似合う。
ひらひらと、茜のスカートが風に舞う。白くて長い脚が覗くたびに、わたしはどきっとしてしまう。
同じ十七歳の高校二年生なのに、どうしてわたしと茜はこんなにも違うのだろう。
「ねえ」と茜がわたしに向かって声を掛ける。
「進路決まった?」
「…まだ。茜は?」
「バスケが出来るとこなら、どこでもいいとは思ってる。葵は?気になる学校とか、なりたい職業とか」
「ないよ、そんなの」
ぼそぼそと答えたわたしに、「そっかぁ」と茜はいった。茜なら、行きたいと思った大学に行けるだろうし、何にでもなりたいものになれるだろう。
わたしは違う。
なんの取り柄もないうえに、学力テストの点数だって偏差値だって、茜にはまったく敵わない。
行きたい大学ではなく、行ける大学を選ばなければならないだろう。
「わたしたち、今度こそ離れ離れかな」
寂しそうに茜がいった。うん、と小さくわたしは頷く。