今夜、きみを迎えに行く。




学校に近付くにつれて、わたしたちと同じ制服を着た人に出会う回数が増えて行く。



女子はセーラー服にカーディガン、男子は学ラン。今の時期だから、上は白いシャツ一枚の人もいれば、シャツにカーディガンの人も、学ランの上着をルーズに羽織っているような人もいたりする。



自転車通学のわたしたちは、毎朝駅から歩いている生徒を何人も何人も、追い抜いていく格好になる。


歩いている女子も男子も、わたしたちが追い抜くと、大抵の生徒が笑顔で「おはよう」と声を掛けてくる。


けれどそれらの「おはよう」は、ほとんどすべてが茜へと向けられた「おはよう」だ。



男女問わず、学年問わず、茜にはとにかく友達が大勢いる。その中にはほとんど茜のファンといっていいような男子や、年下の女子も混ざっていたりする。



普通科のクラスメイトの男子から、特進クラスの茜の電話番号を聞かれるなんてことは日常茶飯事だ。



入学してすぐの頃、わたしには、同じクラスにひそかに気になる彼がいた。彼が話し掛けてくれると嬉しくて、学校に来るのが楽しみになった。少しずつ仲良くなって、二人で会話することも増えた。

だけど、ある時を境にその彼から時折、茜について質問を受けるようになった。
彼氏や好きな人はいるのか、好きな男はどんなタイプか。わたしはそれにすぐに気がついたけれど、それでも彼と話せるのが嬉しくて、気付かないふりをしていた。
始めはさりげなくだったのが、徐々に調子に乗った彼は、
ついにわたしに茜を紹介して欲しいと強引に詰め寄って来た。

最初から、彼が茜の好きなタイプではないことがなんとなく解っていたわたしは、やんわりとその事を彼に伝えた。

茜とは長い付き合いだけれど、わたしと茜が同じ芸能人を好きになることや同じ男子を好きになることは今まで一度もなかったから。

すると、彼はあからさまに不機嫌な顔をして言ったのだ。



「もったいつけんなって。紹介してくれないんなら、わざわざ仲良くなって損したよ」



わたしの茜に対する劣等感は、家にいるときから始まり、学校に到着するまでも、してからも、授業中も休み時間も放課後も、家に帰ってからも延々と、エンドレスに続く。



たまにふと、こんな風に、卑屈な自分が嫌になる。わたしは茜のことが好きだし、本当の家族みたいに思っている。
だけど、わたしは茜にはなれない。






< 9 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop