こっち向いて、ダーリン。【改訂版】
「完全に不審者だな」


ドアを開け病室に入ると、逢川も俺の後をついて来る。

けれどベッドに腰を下ろした俺に、逢川は普段より距離を開けていた。

やっぱいつも通りってわけにはいかねぇよな。


「失礼な。不審者じゃないですよ。深瀬くんはどこに行ってたの?」

「再検査と煙草。医者の見解より治りが早ぇみてーだから、来月には退院できっかも」

「そうなの?!すごいね!さすがケンカ慣れしてる人は違う…」

「うるせぇよ」

「あは」

「それ、あいつからお前にだとよ」

「え?」

「とりあえずの礼らしい」


せっかく来たんだし、忘れねぇうちに言っとかねぇと。


「なに?これ。開けていい?あいつって誰?」

「あいつはあいつだ!鈍い奴だな!」

「え?そんなこと言われても……わ!チョコレートケーキだ!しかもホールで!なにこれ、高級感ハンパない!めっちゃおいしそう!ん?わたしにケーキ?なんで?」

「だから礼だって言ってんだろうが!」

「礼?お礼をされるようなことなんて…」

「昨日、悪かったな。八つ当たりっつーか、ガキみてぇなこと言っちまって」


ちっ。

なんか照れくせぇな。

なんでこいつはこんなに鈍いんだよ。


「このケーキ、深瀬くんのお母さんからだよね?!」

「やっと気づいたか」

「お母さんと仲直りできたの?!」

「はあ?!仲直り?!って近ぇよ!」


なっ!何なんだよ、いきなりこいつは!


間には充分過ぎるほど距離があったはずなのに、逢川の顔が今、目の前にある。


毎度ながら心臓に悪い奴だ!
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