守りたい、不器用な人。~貴方と始める最後の恋~
「結婚しよう」

「っ!? 急に何を……」


驚く私を余所に拓海先輩は小さく笑った。
まるで私の反応の方が可笑しいかのように。


「急じゃ無い。俺は……ずっとその気だったよ。
馬鹿みたいだって笑うだろうが……中学の時……お前と付き合い始めた時から……。
結婚するならお前しかいないって考えてた」


先輩の声はいつもよりずっと優しくて。
離れていた年月さえ感じさせないような、そんな想いがそこにはあった。

私の事を本気で好きでいてくれている。
それが伝わってくるような眼差しに心が揺らいでしまう。


「でも私は……」

「お前の気持ちは……もう俺には無いか?
花蓮にとって俺は……過去の男か?」

「……それは……」


言い淀んでいればガシャンと激しい音が聞こえてくる。
思わず音のした方を向けば、倒れた自転車を起こす人が目に映った。
どうやら置いてあった自転車に激突したらしい。

ぼんやりと見ていれば、ふいに目が合った。
そこに居たのは……。


「山瀨さ……ん……」


気まずそうな顔をした山瀬さんだった。
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