ブラック・ストロベリー
「ごめんなさい」
頭を深く下げた。
たぶんこれからも、考えて時間があっても、答えが変わることはないと思った。
藤さんは、ふは、と息をこぼすように笑みを落としてから、顔をあげて、と優しい言葉をかけてくれた。
「どれだけ待っても、俺に勝ち目はない?」
力なく吐き出されたその言葉に、傷ついているのは向こうだってわかっていても、わたしが苦しかった。
「知らないん、です」
小さくつぶやいたその言葉をしっかり聞き取ったというようにうん、とうなずく言葉が耳に届いた。
唯一、あんなに遠い人でも繋がれるのに、
その着信音がもう鳴らないケータイがポケットの中、どうしても手放せなかった。
「あの人しか、知らないんです」
初めて会った、高校生だったあの日から7年間。
全青春の、隣にいたのはあいつだけだった。
その思い出のひとつひとつが、
わたしを簡単には逃がしてくれない。
「あんなに好きになったのも、あの人だけで」
友達が新しい恋をする。
優しい人、少し意地悪な人。色んな人を好きになって、その恋は気づいたら終わっていて、また次の人に出会って、恋をする。
あたりまえのように繰り返していく恋愛を、わたしは黙ってみているだけだった。
どれだけ時間がたっても、わたしにはアイツを嫌いになる理由がなかったし、好きな気持ちがぶれることがなかった。
高校生だった、バカみたいに全力なあの頃に、隣にいたのは、アイツで。
「バカなんですよ、終わりが来ることなんて一度も考えないで、あの頃のわたしはアイツ以外のことなんか見れなくて、まさか7年後に自分から終わらせるなんて思ってもなかった」
体育祭、文化祭、修学旅行、卒業式。
隣にいない大学生活、新しい友達ができて、
少し距離ができた。
それでも私は離れなかった、向こうも離してなんかくれなかった。
2人で暮らした小さなアパートも、
就職してデビューして少し高いマンションに移ったのも、全部。