ブラック・ストロベリー





「結婚するんだろうな、この人と、ずっと一緒にいるんだって、思ってた、」




周りからもお似合いだって言われて、恥ずかしかったけどそれだけでうれしかった。

最初に比べて少なくなった冷やかしも、別に悪くないなんて思いながら、隣にいない人生を想像したことなんてなかった。





大人になっていくほど、未来を期待して。

その反面、不安ばっかり募っていった。





「アイツが有名人になってもならなくても、こういう結果になったかなって思うけど、一回くらい浮気されても許せるかなって思ってたし、スキャンダルに関してはデマだってことくらい、わかってるんです」




わたしと付き合うような男が、まさかアイドルに手を出すなんてこと信じてなんかいない。


そう言われる距離にいたことだって、しょうがないんだってこともわかってる。



でもそうさせるあの世界に、わたしはどうやっても並べないことだってわかってる。






悪いのは、誰か、なんて。


考えないように、考えても、結局悪い人なんていないのだ。




大人になって知った。

好きなだけじゃ、隣にいれない恋が、あるなんて思わなかった。



初めの頃に持っていた、あの純粋で可愛くて素直な恋心が、もっと大きくなって、離れてなんかやらないと、変わってしまうことがどうしても怖かった。




「あの報道が、デマだってわかってるならどうして、別れを選んだの?」



黙って話を聞いてた藤さんが口を開いた。

私は力なくうつむいて、首を横に振った。



「あの報道がでて、こころじゃ埋められない距離があること、あらためて気づいたんです」



アイツの世界はとても脆い世界だ。

そこで踏ん張って生きていく、その隣にいるのがわたしでいいかなんて、そんな自信なんてなかった。



「このまま、ヒナセは彼との関係を終わらせて連絡も取らずに時が流れていくとするよ、」


たとえば、ね。

そう付け加えた藤さんのほうを見れば、相変わらず真剣にわたしのことを考えてくれているように見下ろして、ふわり、優しく笑うのだ。




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