ブラック・ストロベリー
「まだ、決められない?」
決めることができなかった。
たった数分のあの会話の中で、どれだけアイツに執着していたか知りたくないほど感じた。
失うのが、怖かった。
だから逃げた、あの部屋に、わたしの大きな決断が、そんな簡単に戻っていいと思えなかった。
強がりで、素直じゃなくて。
ただ素直に、一緒にいたいという気持ちだけじゃ一緒になれない。
バカみたいに考えて、そんなこと悩むなってきっとあの男は笑うんだろうけど、それでも考えられずにはいられなかった。
もう会わないと決めた、わたしの最後の強がりが最後まで邪魔している。
「よく言うよ、」
顔をあげれば、藤さんはわたしを可笑しそうにわたしを見下ろしていた。
「君が流す涙は、全部彼のせいだってのに」
一切表情を崩さないその瞳の奥が揺れていた。
「俺が拭おうが、ヒナセのこころの中にいるのは一人だけだろう?」
泣き顔、不細工なんだよ。
ケンカして一度大泣きをしたことがある。
無理矢理部屋から追い出して、鍵を閉めたその向こうでアイツがそう言った。
《《<->》》
どんな表情でもいいから
俺だけのものにしたいんだよ
《《<-》》
ギターをかき鳴らして、言葉にできない思いを音楽に込める。
思っていることは、いつも同じだった。
それだけでどんなことでも許してしまう。
あの人の描く世界にはいつも、わたしがいた。