ブラック・ストロベリー
6時少し前、オレンジから紫にグラデーションしている空の下。
会場には、たくさんの人がいた。
「うっわ、すごい人」
「ブラストなんだから、当たり前だろ」
ここが、アイツの生きる世界だ。
首に掛けられた真っ黒の下地にロゴと真っ赤な苺が描かれたマフラータオル、腕にはラバーバンド、
みんなが着ているTシャツはデビューしたころのものから、今回のツアーのものまでさまざまだった。
もうとっくに、目指していた世界に、当たり前に存在するんだ。
入り口の看板、Black strawberryとかかれた見慣れたロゴを見て、その世界との距離の遠さを改めて感じて足がすくんだ。
「手が届かねえとか、どうとか言ってたけど」
一丁前にマフラータオルを首にかけた陸が、もう一枚を私の首にかけてきた。
このグッズが発表される前にうれしそうに見せてきたアイツを思い出した。
いつもグッズは寝巻きにしてる、だからだいたい持っているものはおなじだけど、いっぱいあるから被ってお揃いになったらおかしくて笑ってたね。
「手を伸ばしてりゃ、アオイくんはねーちゃんのこと引っ張ってさ、隣に並べてくれんじゃねーの」
『 俺、でっけーバンドになる 』
高校の卒業式、屋上で、あの声がそう言った。
あとどれくらいいっしょにいるんだろうなんて、終わりなんて一度も考えなかった、
そんなあの頃に、
アイツの夢がどれだけ本気で、それを隣で支えると言ったのは、わたしだ。
「アイツ、バカなんだよね」
思い返せば、そうだった。
『なんでそんなにイチゴばっか選ぶんだよ』
飲み物はイチゴミルクが好きだった、いちごの飴ばかり持っていて、コンビニで売っている凍らせたイチゴをよく食べていた。
ショートケーキの苺、アイツはいつもわたしにくれた。
そういえば、免許を取ってすぐいちご狩りにつれてってくれたよね。
練乳付けて初めて食べたとかいって、感動してからはイチゴに練乳かけてたね。
『 お前が、黒似合うって言ったんだよ 』
黒ばっかり来ているその服装は、なんでかすごい似合ってると思った。
黒髪がいいんじゃない?髪色で遊んでいた時期にそう言ってから素直に黒髪を貫き通して。
それから髪色変えたとこ、そうえば見た事ないなあ、ちゃんと覚えてるんだね。