俺様社長の溺愛宣言
車を発進させて直ぐ、黒のセダンとすれ違った。

見覚えのあることに気づき、振り返って車を見つめると、直ぐに車は停まり、スーツの男性が降りてきた。

「…零士さん!」

私は大きな声で、零士の名を呼んだ。そして直ぐに一馬に言う。

「…お兄ちゃん、車を停めて‼今降りなきゃ、もう二度と会えないかもしれない」

「…」

私の言葉に、一馬は返事をしない。

「…お兄ちゃん!お願い」

涙声で、懇願する。

「…ダメだ、停めない。アイツには会わせない。会わせられない…会わせたくない」

車はどんどん零士から遠ざかっていく。

「…わかった、もういい、このまま飛び降りるから」

私はそう言って、ドアの鍵を開けて、ドアを開けようとした。

「…バカ!やめろ!」

一馬は慌てて急ブレーキを踏んだ。

車は停まって、私はそれをいいことに、車から飛び降りて、走り出した。

胸が苦しい。走るなんていつぶりかわからない。

それでも一分一秒でも早く、零士の顔が見たかった。

走って、走って、走って。


マンションにつく頃、マンションの中から、肩を落とした零士が、タイミングよく出てきた。

「…零士、さん」

消え入りそう声で、零士の名を呼んだ。

その声に、聞こえていない筈の零士がこちらを向いて、目が合った。

久しぶりの顔に、私は柔かな笑みを浮かべるも、息もままならず、胸が苦しくて、そのまま意識を失った。
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