俺様社長の溺愛宣言
「…ここですか?」
「…そうだよ?行こう」

奏のエスコートにより入店した店は、有名なフレンチレストラン。

こんなところに二人で入るなんて気が引けると、一歩後退した私を、奏は私の背中を優しく押して、入ってしまった。

よく分からない私を気遣って、奏が全て注文してくれた。

最初は緊張していた私だったが、奏はそんな私の緊張を意図も簡単に溶いてくれた。

しかも、料理がすこぶる美味しい。

…。

「…美味しかったです」
「…そう、良かった」

私の言葉に嬉しそうにそう答えた奏に私は言う。

「…あの、ご馳走していただいては悪いので、自分の分は出します」

鞄から財布を取り出そうとしてその手を止められる。

「いいよ。誘ったのは俺だから。気にしないで」
「でも」

申し訳なさそうな私の顔を見て、奏は笑う。

「…本当に、渡辺さんは他の女の子たちとは全然違う」

その言葉に困惑顔で奏を見ると、奏は私の頭をポンポンと軽く叩いた。

「…そんな顔しないの。ご馳走さまって言葉があれば十分だよ」

数秒考えた私は、

「…ご馳走さまでした」

と、素直に言った。

すると、奏は満足そうに頷いた。

…そんな会話をしながら、駅に向かって歩き出した時だった。

「…そうだ、渡辺さん…渡辺さん?」

私の名を呼んだ奏が振り返ると、そこにあるはずの私の姿が何処にもなかった。

何度も名を呼んだ。携帯もかけてみた。

でも、私はもうその場に居なかった。
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