以心伝心【完】

アヤに車を出させて向かうマンション。
一秒でも早く真に会いたくて、信号で止まる度に舌打ちをした。

「圭ちゃん、怖ぇよ。てか、家に着きゃ誰にも邪魔されないでイチャつけんだから信号くらいでいちいちキレんなよ」

俺の舌打ちに気分を害したのかアヤまで不機嫌になる始末。こうなるんだったら後藤も乗せてくりゃよかった。

窓から見える楽しそうに笑うカップルを見て、俺らにもこんな日が訪れるんだろかと考える。そう遠くはないと願いたい。
何組ものそれを見て、溜息が出る。

「なぁ、真連れて戻っていい?」
「俺にまた迎えに来いと」
「じゃあ、いい」

なんだよ、と呟きながら道の脇に車を止めた。

「イチャこいてて来るヒマなんてねぇよ。それでも来るんなら考えてやる」

車から降りる俺にそう言い捨てて顔も見ず車を走らせた。
アイツも相当、素直じゃない。言わなくても来るくせに。言わなくてもわかってるくせに。
俺の気持ちも、俺が電話をかけることも、俺が車を出せって言うことも、全部全部わかってたくせに。

そんなことはどうでもいい。
今はとにかく・・・真に、会いたい。

ポケットから鍵を取り出して、焦ってうまく開けられない鍵を開けてドアを開けると玄関には真が立っていた。少し眉を下げて、いつから待っていたかわからないけど、俺を見つめていた。

その姿に思わず抱きしめた。どんな理由であれ、一人にさせたことをわびるように抱きしめた。
抱きしめた真が少し震える。ぶら下がっていた手が上ってきて真と俺の間に入り込んで、真の目元にあてがわれる。

立ちすくんだままだった真も泣き顔を見られないためか、肩に頭を預けてきた。
・・・可愛い。
少しだけ期待を抱いた俺は落ち着いた真の手を握ってリビングへ引っ張った。

ソファに座り向かい合う。真は泣いて目も鼻も少し赤い。顔もほんのり赤い。
可愛くて笑みが抑えきれない俺は口元が緩んだまま。
少しずつ後ずさりしながら、でも小さい二人掛けのソファにそんな余裕などなく焦る真がまた可愛い。

「焦ってるのも可愛いな」

素直に出た言葉。素直に出た言葉だけど、真の知ってる俺はこんな言葉なんて絶対言わない。

俺は真に隠しているもう一人の自分がいる。
どっちも俺だけど、どっちかっていうとこっちの方が素で真が一番嫌うタイプだろうなって思ってたから一切出さなかった。だけど、こんな時くらい使っても怒らないだろう。
口説き落とすなら、これくらい使って気付かさないと真には響かないだろうって思う。

高校生の時に勝手に出来上がってた俺。あの時は遊び相手に困ることなんて一度もなかったし、彼女なんか作らなくても寄ってきてくれた。
地元で言われるだけじゃ信用ならなかったけど、大学に入ってからも言われて“そうなんだ”ってやっと思えたけど、俺の顔は悪くないらしいし、それを使って本気で惚れた人が出来た時はどうこうしようなんて考えたことなかったけど、今それを使わないわけにはないでしょう!と思ってる。

何回、何百回言ったか覚えてない言葉は真の前では違う。
俺の本音がこもってる。他の女に言った言葉なんて、ただのセリフにしかすぎない。

「顔、真っ赤じゃん」

どうやらこの顔は真にも効果はあるらしい。見たことのない顔に内心の俺はテンションがあがる。

「好きになった?」

ちょっと調子にのって聞いてみた。
真っ赤になった顔はそのまんまだけど、目が怒ってる。普段と違って今そんな顔しても可愛いだけなのに。

俺の口元はさっきからだらしなく緩みっぱなし。
ほんと、こんな可愛い真なのによくルームシェア合意したなって当時の俺自身の判断力に驚く。

「真とルームシェアするってなったとき、俺のツレがどんなに驚いたか」

アヤなんか特にオーバーリアクションで『女の子だよ?!しかも、超可愛いし、関西弁だよ?!』ってすんごい羨ましがられた。『“あんたのこと好きやねん”って言われてぇ!!』と慣れない関西弁まで使って言ってたくらい。
思い出しただけでもウケる。
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