春風駘蕩
それから一週間あまり。
市川巽の結婚がマスコミに発表された。
発表以降のスケジュールの管理はもちろん小倉さんで、当人である巽と私、そして双方の家族もそれに従うことになっている。
すべて、巽の活動にプラスになるように計画されているのだ。
「似合うかな……?」
試着室から出た私は巽の前に立ち、ゆっくりと回って見せた。
黒地に朱色や赤、そして金色の糸で刺繍された花が咲き乱れる豪華な衣装。
結婚式で着ることになったのは、引き振袖だ。
着物を着る時に、丈の長さを合わせるためのおはしょりを作らずに、丈が長い状態で振袖を着ると、裾を引きずることになる。
これが引き振袖の着方で、花嫁だけに許されているものだ。
私が試着している引き振袖は、小倉さんの知り合いが保管していた由緒あるものらしく、その価値はかなりのものらしい。
今年の秋に決まった結婚式の準備は、巽の渡欧が控えていることもあり、かなり早いペースで進んでいる。
情報公開はまだだけど、この年末、巽は和楽器とヴァイオリンのコラボに参加することが決まっていて、それに向けてのイメージづくりということで決まった引き振袖。
もちろん巽は袴姿。