春風駘蕩



「あ、その入り口で止めてください」

巽の声が響き、タクシーは区役所の前に停まった。そして支払いを済ませる。

タクシーから役所の前にふたりで降り立つと、気持ちが高揚していることに気づく。

愛する人との幸せな未来を、結婚という後ろ盾とともに作り上げていく誓い。

それが婚姻届けだと会社の先輩である七瀬さんが言っていた。

聞いた時にはピンとこなかったけれど、いざこうして届けを手に歩いていると、その意味がわかる気がする。

「巽、幸せにしてあげるね」

私は、私の手をつかんで半歩先を歩く巽にそう言った。

同じ名字、結婚しているという後ろ盾、それは私が巽との未来を自信を持って歩んでいける保証のようなもの。

そして、巽からたったひとりがもらえる素敵なプレゼントだ。

私からのそのプレゼントのお礼は、巽を目いっぱい幸せにしてあげるという心からの誓い。

私の言葉に耳まで赤くした巽は、歩みを止めることなく私に視線を向け、照れながら小さな声でつぶやいた。

「そんなの、とっくに幸せだ。由梨香と再会してからずっと、俺は幸せなんだ」

巽の声に、私も思わず「うん、私も」と大声で答えた。

そんな甘い言葉をふたりで交わし合いながら、婚姻届を提出し、無事に受理された。


< 43 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop