千日紅の咲く庭で
「大丈夫だよ。キスくらい、いい歳なんだもん。」

無理して口角を挙げて笑って見せたけど、きっと上擦ってしまった声で岳は私の動揺を見抜いてしまったに違いない。

「うん」
岳は小さく呟いて、少しだけ傷ついたような困ったような顔をして、青に変わった信号に気づいてゆっくりとアクセルを踏み込んだ。



「それより、私の方こそ今日はありがとう。料理もお酒も美味しかった」

「それなら、よかった」
「うん」


努めて明るく伝えた私のお礼は、真っすぐ進行方向だけを捉えた岳のあっさりとした返事のせいで次の言葉を見つけられずに彷徨ってしまった。


二人の間に流れるこんな無言の沈黙は、喧嘩したとき位なのに。
近くにいるのに、どこか岳が遠い場所にいるような気がして泣きなくなってしまった。

私は下唇を小さく嚙んで、街並みのネオンを見つめているふりをした。

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