千日紅の咲く庭で

「おいっ!!」

もうすぐ我が家が見えてくるという頃になって、急に後方からすっかり聞き慣れた声がした。


聞き慣れているはずなのに、その声のトーンは私が聞いたこともない程低くて怒りを含んでいる。

私は、ちょっとした恐怖すら感じてしまい、声の方を振り向けないままだった。


それでも、その声の主が誰かなんてすぐに分かった。
だって、その声は私の鼓動を無意識に高鳴らせる、岳の声だったのだから。


恐る恐る振り向くと、岳の表情は29年間で私が見たこともないほど冷たいものだった。
殺気立っているってきっとこんなことを言うのだろうと思った。

私は思わず背中の辺りを冷気が掠めていくのを感じずにはいられなかった。