千日紅の咲く庭で
「もう、泣きすぎですよ」

「この涙は、東谷君のせいだよ…」

私の言葉に、東谷君は息を漏らすようにして笑ったのが分かる。
東谷君とも、明日からまたこうやってきっと笑いあえると思えた。


「…じゃあ、先に行きますね。これ以上いると、僕は杉浦さん抱きしめたくなりますから。」

「えっ?」

目を丸くした私の反応に東谷君は吹き出してしまう。

「杉浦さん、冗談ですよ。じゃ、また明日」

「また、明日ね」
東谷君は笑顔で私に小さく手を振ると、スラックスのポケットに手を入れて背を向けて早足で、駅の構内へと姿を消した。



なんだか少し寂し気な東谷君の後姿を見送ると私はベンチに腰掛け、下弦の月をぼんやり眺めた。


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