千日紅の咲く庭で
リビングに1人になると、テレビの横にあるお母さんの遺影をぼんやりと見つめる。


「一人ぼっちになっちゃった」

こちらを見て微笑んでいるように見えるお母さんの遺影に、ポツリと呟いてみる。


小さなため息をつく私の耳に入ってきたのは、ご機嫌な岳の鼻歌だった。

何の歌なのか分からないけれど、リビングから対角線の位置にある浴室から鼻歌が聞こえてきたことなんて私には記憶がないから、きっと鼻歌の域を超えた結構大きな声。


「今日だけは、一人ぼっちじゃないみたいだよ。お母さん」

お風呂に入って姿が見えないのに、この家の中に誰かが居てくれるのが、ちょっとだけ心強い気がした。


お母さんが居なくなったなんて、まだ信じられないけれど私はなんとなく、お母さんの遺影に向かって話しかけていた。


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