千日紅の咲く庭で
「悪かったわね、どうせここは古い家なので。岳の高級マンションには敵いませんよーだ」

私は頬を膨らませ、口を尖らせて見せると岳は肩を震わせて笑い始めた。

「ごめん、ごめん。そんなつもりで言ったんじゃないから。機嫌悪くするなよ。」

別に機嫌なんか悪くなんてない。
そんなの岳だってわかっているくせに。

岳は、朝食を食べ終え、おもむろに立ち上がると、向かい合って座った私の顔を覗き込むように見つめ、おでこに軽いキスをした。


「これで、機嫌直せよ。じゃ、行ってくる」

岳は食器をキッチンのシンクに置くと、足早に玄関を出て行ってしまった。


「う、うん。いってらっしゃい」

岳の不意打ちに私は動揺して、ドギマギしながら岳を送り出したのだった。


岳と付き合いだして、岳との関係は依然と変わらないことも多いけれど、岳は時々くすぐったくなるような甘い言葉をくれるようになったし、何かと理由をつけてキスやスキンシップを図ってくる。


私は未だに慣れなくて、毎回のようにドギマギしてしまっている。

そんな私の反応を岳は面白がっているのが、少し悔しくもあるのだけれど。

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