千日紅の咲く庭で

「そう、3.14っていうあれ。円周率って永遠に続くって言われてるんだ」

「へぇ」

岳とは小さい頃から学校の成績だけは雲泥の差があった私は、急に円周率が永遠に続くなんて言われて小さな感嘆のため息を漏らすと、岳は小さく苦笑した。


「だから、花梨。今日、結婚しよう。」

「うん」

きっと、最高にロマンチックなシチュエーションで、すごく素敵なプロポーズの言葉で、私が待ちに待っていたはずの言葉なのに。

人間って、驚いたらやっぱり言葉はほとんど出てこないようだ。
私は一言返事をして、小さく頷くことが精いっぱいだった。

そんな私を岳は優しい眼差しで微笑んで見つめた。岳の少しだけ冷たい指先は私の指先を絡めるようにして握った。

こんな時、岳は照れて視線を泳がすのに、今日は私の瞳を一点に見つめて、離れない。