千日紅の咲く庭で
柔らかな笑みのまま岳が口にした一言に、私は返す言葉も出ない位にハッとした。


あの日以来、ずっと現実感のない時間を彷徨っている私にこの数日笑った記憶がない。

どんなに面白いテレビを見ても、いくら岳と話をしていても、どこか上の空だった気がする。


「うん…。そうかも」
しばらく考え込んだ私は、右手で口元を押さえながら呟くと、岳の柔らかな微笑みは一気に口角が上がって、白い歯を見せた満足そうな笑顔へと変わったのが分かる。


「そうやって笑ってる方が花梨らしいじゃん。」


いつもは馬鹿だとか言う岳が、褒めてくれるとやっぱり照れくさい。

でも照れくさいのは岳だって一緒だったようで、岳の顔は急に耳まで赤みを帯びた。

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