intoxication
「ほんとによかったのー? あんな適当なので」
「あぁ、よかったよ。俺花とかわかんねぇから、助かった」
「そっか。ならよかった」
にっこり。
俺の隣を、俺と同じペースで歩いて、俺を見つめて笑う。
まるであのころに戻ったみたいに、彼女の笑顔は変わらない。
外見はまるっきり変わってしまった。
いいやきっと、俺が変わって無さすぎるだけだ。
俺の手には、彼女が見繕ってくれた花束が。
ピンクと白と赤の花束。
うちの店には少しばかり可愛らしい気もするけれど、まぁいい。
「すごいねぇ。一槻は。ちゃんと夢を叶えたんだね」
「え?」
「バー、一槻の、夢だったじゃない」
口調もあの頃と変わらない。
ゆっくりと、ゆったりと、そう呟く彼女の横顔が、どことなく寂しげに見えたのは見間違いじゃない。
彼女は今も、抱く必要のない罪悪感を抱いているのだろうか。
「一槻」
「ん・・・?」
彼女が脚を止めて、あの頃あれほど愛おしかった声が俺を呼ぶ。
立ち止まって俺を見つめる。
二時半を過ぎたくらいの、まだ明るい街を背景に、まるで彼女だけが切り絵みたいに。
花を持った彼女は絵画みたいに綺麗だ。
「あのね、わたし―――」
「由里子」